仙台高等裁判所 昭和24年(を)31号 判決 1949年11月25日
被告人
田島正夫
主文
原判決を破棄する。
本件公訴はこれを棄却する。
理由
弁護人佐藤達夫の控訴趣意は、
第一点 原判決は「本籍神奈川縣川崎市神明町二ノ七田島正男當十八年昭和七年一月二十五日生」と表示し又「被告人は少年であるが昭和二十四年一月十三日頃上北郡大三津町米軍基地内兵舎から同軍所有の寫眞機一台、フイルム二本、手袋二足、ズボン一着を窃取したものである」と被告人の公判廷に於ける供述及び司法警察員作成の差押調書の品目記載によつて認定した。
然るに被告人の本籍氏名生年月日は被告人の供述のみによつて認定して戸籍謄本によつて証明されていない。
本控訴趣意書に添付する戸籍謄本によると被告人の本籍は頭書の如く新潟縣西蒲原郡岩室村大字橫曾根千四百拾貳番地亡父田嶋榮松母リサの四男にして氏名は田島正男にあらず田嶋正夫で昭和十年一月十六日生れである。弁護人が本控訴趣意書に添付する戸籍謄本記載の田嶋正夫と被告人とは同一人である。被告人は犯罪時の昭和二十四年一月十三日頃は刑法上責任無能力者(滿十四歳未滿)にして刑事上の責任が無いことが明らかである。それを原判決が戸籍謄本によつて本籍並に生年月日を明らかにせずに刑事責任能力者として爲された原判決は違法であるから原判決を破毀し無罪の判決を言渡して貰いたいというにある。
本件公訴事實は、「被告人は、少年であるが、昭和二十四年一月十三日頃靑森縣上北郡大三津町米軍基地内兵舎から同軍所有の寫眞機一台、フイルム二本、手袋二足、ズボン一着を窃取したものである。」というのであり、原審第一囘公判調書中被告人の供述記載、司法警察員淺利鉄司作成の現行犯人逮捕手続書及び差押調書の各記載を総合すると、右事實を認めることができ、特に右行爲の日が昭和二十四年一月十三日であることが明白であるが、弁護人提出の戸籍謄本の記載よにると、被告人は昭和十年十月十六日生であつて昭和二十四年一月十三日當時は十四歳未滿の刑事未成年者であることが認められる。
しかるに、十四歳に滿たないで刑罰法令に觸れを行爲をした少年はこれを刑事処分に付すべきものではなく、家庭裁判所は、かような少年の事件については、調査の上少年法第十八條により兒童福祉法による措置を執らしめるため事件を都道府縣知事又は兒童相談所長に送致するか、同法第十九條により審判を開始しない旨の決定をするか、同法第二十一條乃至第二十四條により審判を開始する旨の決定をした上審判をして事件を都道府縣知事又は兒童相談所長に送致する決定若しくは保安処分に付しない旨の決定をするか又は保護処分に付する旨の決定をして同法所定の保護処分に付すべきものであつて、かような少年につき刑事処分に付するのを相當として事件を檢察官に送致すべきものではない。從つて家庭裁判所がかような少年の事件を檢察官に送致するのは違法であり送致を受けた檢察官がその事件につき公訴を提起するのは家庭裁判所の違法な送致手続に基き本來刑事処分に付することのできない者につき公訴を提起しこれに刑罰を科すべきことを求めるものであつて、その公訴提起も亦明かに違法であるといわなければならない。よつて、被告人に対する本件公訴事件につき審理を遂げ被告人を懲役六月以上二年以下に処した原判決は不法に公訴を受理したものであるから、刑事訴訟法第三百九十七條第三百七十八條第二項第四百條但書により原判決を破棄し當裁判所において更に判決することとし、同法第四百四條第三百三十八條第四號により本件公訴を棄却する。